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「この素材の可能性を信じている」ダウンジャケットに挑戦したデニム屋「カイハラ」開発者の熱き情熱

左から「カイハラ株式会社」執行役員 営業本部 本部長 営業部 部長 稲垣博章氏、「カイハラ産業株式会社」三和工場長 松浦真二氏、「カイハラ産業株式会社」商品企画部 商品開発課 課長 前原章浩氏

国内シェアは約50%。街中で見かけるジーンズの2本に1本は、ここ「カイハラ株式会社」が製造したデニム生地を使用している計算になる。

昨年春には、10年もの開発期間を経て完成させた「MONSTER STRETCH®」を採用したジーンズを「Makuake」で発表。生地の供給に徹してきた同社が初めて作り上げたジーンズは大きな反響を呼び、1,400万円を超える応援購入金額を集めることとなった。

そんなデニムのトップブランドが、今度は「ダウンジャケット」の商品化に挑戦。その背景を知るべく、編集部は広島県福山市へ!

ポイント①

良質な生地はこうして作られる!

貴重な工場内部の様子をお届け

背景について聞く前に、まずは工場見学から。「デニム生地ってどんな風に作られているの?」と気になっている方もきっと多いはず。国内シェア約50%のカイハラのデニム生地、そして今回のダウンジャケットに使用される生地はこうして作られている!

初めに訪れたのは三和工場。ここでは主に「糊付」と「織布」が行われる。

「糊付」とはタテ糸に専用糊を付けることで、強度、伸度、平滑性を生み、織機での織り上げをスムーズにする工程。一方、「織布」は糊付けされたタテ糸にヨコ糸を打ち込むことで生地を織り上げる工程を指す。

「太番手の糸を使ったヘビーウェイトのデニムに対応するプロジェクタイル織機、クラシックなテイストを追求したヴィンテージデニム用のシャトル織機など、種類や特性に合わせて機械を使い分けられることが強み」だと稲垣さんは言う。

約120台の織機が並ぶ織布エリアに運ばれた糊付け後のタテ糸。
今回はダウンジャケットという特殊な用途のため、糸は別会社から仕入れたものだが、
従来は紡績から整理加工までデニム作りのすべての工程を社内で行っている
肉眼では何が起きているか分からないほどの速度(約170km/h)で、タテ糸にヨコ糸が打ち込まれていく

生機検査では織り上がった原反が規格通りに製造されているかどうか、専門のスタッフが厳しくチェック。検査で出た不良などの結果は速やかに前の工程にフィードバックされるなど品質管理を徹底しており、問題がない良質な原反だけが別工場(ポイント4で紹介)へ運ばれることに!

編集部 米谷
編集部 米谷

「実際に稼働している織機を見たのは初めて。しかも、ニーズに応じて最新式から旧式まで様々なタイプを使い分けているとは……。後工程に不良を流さない工夫もなされており、世界から高い信頼を得ている理由の一端を垣間見ることができました」

ポイント②

なぜ、ダウンジャケットを?

開発者が強く信じる「素材の可能性」

「当然、初めに話を聞いた時は『なんだそれ?』と思いましたよ」

長年にわたり高品質なデニムの生地を作り続けてきた三和工場長の松浦さんは、当初、ダウンジャケット用という新たな生地の製造に難色を示した。開発リーダーの前原さんが苦笑しながら無理もないと説明する。

「デニムと違って糸が細く、本数も多い。ストレッチ性が必要なため、織る、加工するというところの難易度も高い。さらに、これまで扱ったことがないほど高価な薬剤を現場に持ち込む必要がありました。現場の方は大パニックだったと思います」

現場の作業着はカイハラ製のクールなデニムシャツだ

改めて説明すると、今回の商品は“ただのダウンジャケット”ではない。太陽光に含まれる近赤外線を効率よく吸収して熱に変え、約20度も温度が上昇するという驚異の性能を備えたハイブリッドなダウンジャケットだ。一般的に、いかに体温を外に逃さないかがポイントとなるダウン作りにおいて、外からも温めてしまおうというアプローチは画期的といえるだろう。

この蓄熱機能、さらには撥水機能までもが特殊な薬剤によって付与される。先の「これまで扱ったことがないほど高価な薬剤」とはそのことだ。

大きな摩擦があり、もうやれないというくらいの反発もあったのですが、とにかくお願いをし続けて……。僕がもういいやと諦めたら、そこで終わってしまう話。なんとか実現したい、その想いだけはブラさないようにと」

「現場の説得に一番苦労した」と振り返る前原さん。そこまでして実現にこだわった理由を聞き、「これぞ開発者……!」と胸が熱くなった。

「一番大きかったのは、この蓄熱機能はすごい!と自分自身が効果を体感できたこと。それが全てです。よくある抗菌効果や消臭効果って、なかなか体感しづらいじゃないですか。でも、これに関しては、暖かい!と瞬時にわかりました。正直、最初は半信半疑だったんですが(笑)。

この驚きを、とにかく多くの人に知ってもらいたい。温めるという意味では、将来的には農業や医療など様々な分野にも展開できるはず。この素材の可能性を僕は信じているので、壁がいくら高くても絶対に諦めたくなかったんです」

編集部 米谷
編集部 米谷

「初めからダウンジャケットを作ろうとしていたわけではなく、この蓄熱機能のスゴさを伝える最善の方法は何か?を考えてたどり着いたのがダウンジャケットだったそう。最終的には『前原君の熱意に負けた』と仰った松浦さんの穏やかな表情が印象的でした」

ポイント③

年間の素材開発件数は800以上!

新たなカイハラの世界観を目指して

驚異の蓄熱機能を有する素材の開発——。その背景には、ニーズに合わせた開発(=ニーズ開発)ではなく、社内で新開発された技術を元に商品化へつなげていく、積極的な同社のシーズ開発の姿勢がある。稲垣さんが力説する。

「デニム生地は世界的にも大きな工場で作られることが多く、ものすごい価格競争が起きている。カイハラの品質、こだわりを理解してくださるお客様は少し高くてもウチの生地を買ってくださるのですが、とにかく市場には安いものが溢れていてそちらに流れ始めています。

我々としてはデニム生地メーカーでありながら、新しいものを生み出そうと日々努力しています。『Makuake』でプロジェクトを実施させていただいたMONSTER STRETCH®もそう。新しいカイハラの世界観を作っていかなければいけません」

「当然、デニムには強いこだわりを持っており、本流です。しかし、海外の安い生地と差別化を図るには、新たな機能を付けるなど、日本ならではのものづくりで勝負していくしかないんです。新しいフィールドを自分たちで作り、商品を投入していく必要があります」

年間の素材開発件数はなんと800以上。老舗のイメージがある同社が、これほどまで日常的に新たなものづくりにチャレンジしていることに驚かされた。

「確かに今回のダウンジャケットはデニムではありません。ただし、黒とネイビーの2色展開のうち、後者にはデニムに欠かせないインディゴ染料を使った糸を用いるなど、“カイハラらしさ”は意識しました。

デニムにこだわってやっていきたい部分はありつつも、そこだけにとらわれると、工場の運営や企業としての存続にも課題が出てくる。次の世代への道を閉ざさないためにも新しいものをどんどん作っていき、カイハラってこういうものも作るんだ!という驚きを楽しんでいただけると嬉しいですね」

試着させていただいたセカンドサンプル(最終品は裏地のみが変更)。
太陽光で発熱するため内部のダウン量が減り、軽量化とシャープなシルエットが実現した
止水ファスナーやベンチレーションも搭載。機能面にも抜かりがない
編集部 米谷
編集部 米谷

「本流であるデニムへのこだわりと、柔軟に変化しながらのチャレンジ。相反する要素をうまくバランスさせながら奮闘している様子が稲垣さんの話ぶりから伝わってきました。そんな苦労の中で作り上げたダウンジャケットはまさに一級品。蓄熱機能はもちろん、細部のこだわりもぜひ体感してほしい!」

ポイント④

「ありきたりなものづくりでは存在意義がない」

吉舎工場で聞いたチャレンジへの覚悟

左から「カイハラ産業株式会社」吉舎工場 加工部 加工課 課長 森義之氏
同部 開発係 山本啓太氏

最後に、最終工程を担う吉舎工場をご紹介。三和工場で織り上げられた高品質の原反がここへ運ばれ、今回のダウンジャケットの肝となる蓄熱機能と撥水機能が付与される。

肝となる薬剤塗布の様子は社外秘のため、残念ながらお伝えできない。
薬剤を塗布された原反は表面のケバを取る毛焼き、生地にコシを持たせる糊付けなどを経て、要望に応じた風合いに仕上げていく
クライアントの求める品質規格をクリアしているかどうかの最終検査をおこない、
合格したものはそれぞれの要望の長さに合わせてカットされ、ビニールで梱包
機械が自動で生地の搬出を行なう立体倉庫。膨大な在庫の一元管理とスピーディーな製品供給体制を構築している
ちなみに工場を案内してくださった森さんの作業着はカイハラ製デニムパンツ。言葉にせずとも自社製品への愛とプライドが伝わってくる

工場見学を終えて会議室に戻ると、例のセカンドサンプルがテーブルに広げられた。「最終的にこうなったか!」と森さんは感慨深そうだ。稲垣さんが続けた。

「やっぱりカイハラは生地がメインの黒子なんです。こうして最終製品を目の前で見れるのは、やっぱり嬉しいものですよ」

森さんも苦労の日々を回想する。

「多くの機械がある中で、どの機械で薬剤を塗布するか、非常に悩みました。機械によって塗布される量や位置が違うので、最適なものを選択する必要があったんです。

デニムと比較すると生地が薄く、黒いのでゴミも目立つ。とにかく気を遣うし、手間がかかった。その分、実物を見ると嬉しい気持ちになるんですよね」

「現場には品質目標があります。マイナスになると、どうなってるんだと当然指摘が入る。だからこそ、今回のような難しいチャレンジは嫌がって当たり前。そこを一押しするために必要なのは、私たち営業や開発が背景や目的をしっかりと説明すること。そして、失敗のリスクを一緒に背負うことです。

新しいものを生み出そうとしている時に、数字で測ろうとするのはナンセンス。そういう文化を作っていかないと、ありきたりなもの作りになり、存在意義がない。もちろん品質を度外視したりはしませんが、その物差しだけで測らないチャレンジは絶対に続けていきたいと思いますね」(稲垣さん)

編集部 米谷
編集部 米谷

「2つの工場を周り、多くの関係者に話を伺った今回の取材。『素材の可能性』『新しい世界観』など、未来志向のチャレンジングな発言が印象に残りました。この記事を読み、一人でも多くの方に『チャレンジを応援したい!』と思っていただけると嬉しいです」

自身が体感した優れた蓄熱性能を、なんとか多くの人に伝える術はないか?その答えがダウンジャケットであり、今回の「Makuake」のプロジェクトだ。

カイハラらしくないといえばそうかもしれない新素材が、サポーターや取引先など色々な人に着用してもらい「イイね!」と言われることで、新たなきっかけをもたらしてくれるはず。

当然、プロジェクトの行方は気になるが、まだまだこれはスタート地点。決してゴールじゃない。多くの人にその凄みを伝え切った先には、多用途展開へ向けたカイハラの次なる挑戦が待っている——。

※本文中の写真は全て撮影時のみマスクを外しております

執筆:米谷真人
撮影:山崎皇輝

今回取材したプロジェクト

【カイハラ発】太陽を味方に!太陽光+ダウン=HINATAダウンジャケット